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コミュニティ・オーガナイジングとアクティビスタ ♯1
アクティビスタと第三者の間で
2003.5.6(火)
COM(Community Organizing Mutiversity)というNGOで、数回目のミーティング(ここは、私がフィリピン滞在中、一番お世話になったNGOで、私の修士論文にも事例として登場する。組織としての良い面も悪い面も、包み隠さず、というのは嘘で、やはり包み隠していたには違いないが、とても真摯に教えてくれた。)
COMは、コミュニティ・オーガナイジング(地域組織化、以下CO)のトレーニングを専門に行う半ば教育機関のようなNGOである。フィリピンでも、NGOといえばやはり、教育、職業訓練、医療などのサービスを政府に代わって提供する「プロジェクト実施型」の団体が多いが、ここは決して、そうした具体的なプロジェクトを実施する団体ではない。むしろ、そのような「プロジェクト実施型」のNGOや、さまざまな問題に直面している地域の住民団体などから依頼を受けて、その地域の住民の組織化とトレーニングをおこなうことを専門とした、半ば教育機関のようなグループなのである。
ここでは、コミュニティ・オーガナイザー(地域組織化「コミュニティ・オーガナイジング(CO)」を手助けする人材)を目指す人のトレーニングも行っている。
本当に、NGOといっても実にいろいろな組織があるものだ。ここはまるで訓練所。トレーニングはかなり厳しい。日本では、途上国のNGOと言えば「プロジェクトを実施する」というイメージが強いけれど、ここなどは特に、かなりレベルの高い専門家集団である。

私はエクスポージャーという形でこの組織にお世話になっており、調査地の住民リーダーやオーガナイザーを紹介してもらったり、文献を貸してもらったり、といつもお世話になっている。また、フィリピン大学でCOを学んでいる同年代のオーガナイザー(本当は彼女自身も訓練を受けている途中のトレーニー)の入っているコミュニティでの彼女の仕事を見せてもらったりもしている。
このほかに、この組織が外国人のエクスポージャーやトレーニーも受け入れている。韓国やや香港のNGOワーカーが、インターンやトレーニーやエクスポージャーとして数ヶ月ここに滞在し、COトレーニングを受けながら、COの基礎概念を学ぶ。私もそのなかに入れてもらい、彼らと一緒に学んでいる。各自がCOを通して明らかにしたい目的や行動プランを作成し、トレーナーの指導を受けながらコミュニティに滞在し、フィールドワークを行う。
そして、二週間に一度、トレーニー、トレーナーが一堂に会して今日のようなミーティングを持ち、各自の進捗状況や、経験から考えたことをシェアし、ディスカッションを行う。ミーティングをファシリテートするのはこれまたプロのオーガナイザーで、議論の進め方、参加者の意見のまとめかた、問題設定のしかたなど、ほんとうにお見事と言うしかない。トレーナーたちのトレーニーに対する質問もとても厳しい。

「オーガナイザーは直接手を下すことはせず、地域に対して何の決定もしない。動員もしない。ただ、住民自身の自己決定を促し、サポートをする」というのがCOの基本コンセプトで、「参加型開発」概念に近いものがある。実際に、COMのオーガナイザーの参加のもとで開催されている住民組織のミーティングを見ていても、オーガナイザーは議論整理くらいしかしない。その概念はこのミーティングにも導入されており、「答えは与えない。ただ考えるヒントや機会を提供して、自己決定を促すだけ」という手法が使われている。トレーナーたちに突っ込まれて答えられなかったことも、私たち自身がミーティングの席で発した質問も、そのまま私たちの「アサインメント(宿題)」となり、次回に繰り越される。

ミーティングのあと、トレーニーたちとともに近所の店で軽食をとった。まだ日が高いのにビールを飲み始めた彼らは、私が政治学専攻で、住民運動と政治運動の関係に焦点を置いていることを知ると、自分たちの過去の政治活動について語ってくれた。一人は、アナーキストに近い学生運動のグループで過激な闘争に関わった経験をもち、もう一人は、穏健だが有名なある政治組織に長年所属していたという。いま、彼らは「中立」「非干渉」を貫くプロのオーガナイザー。コミュニティではおそらく、特定の政治的グループを支持することは許されないはずである。けれど、仕事を離れた個人としての彼らの精神はいまだに政治的であり、自分のイデオロギーを持ちつづけている。とても不思議な気がした。

実を言うと、私はこのトレーニングを受けてコミュニティに入ることを恐れる面があった。自分はオーガナイザーを目指しているわけではない。けれど、COMのトレーナーは、「たとえあなたはエクスポージャーで来ているのだとしても、COの概念を体感するために、トレーニーしてオーガナイザーになるための基礎訓練と同様のステップを踏んでもらう。そしてあなたはオーガナイザーとして地域に関わることになる」と言った。
「人々は研究材料としてそこに存在しているのではない。コミュニティはラボラトリーではない」と、トレーナーたちはいつも言う。ただ自分の勉強のため、と割り切ってただコミュニティを傍観するだけのアウトサイダーでいつづけることは、生活を懸けて活動している住民の方々に対してあまりにも失礼なことである。

けれども、いったんそうしてコミュニティに関わってしまえば、自分の中の客観的な視点が失われてしまうないかと私は恐れている。コミュニティに関われば関わるほど、私は彼らに感情移入せざるを得ないだろう。不条理な政府の立ち退き勧告に抵抗する住民運動を、支援したい気持ちになってしまうだろう。

自分の研究テーマを考えれば、特定の組織を手助けしたり、自分が社会運動の一部になってしまっては話にならない、と思う。

もちろん住民の方々は、タガログ語が満足にあやつれない私をオーガナイザーとは思わないだろう。けれど、自分がどういった立場で地域に関わるのかというのは、今後の人々との関係を構築する上で、また、自分の視点を保つ上でとてもセンシティブな問題である。

けれど、ここでビールを飲んでいる、「アクティビスタの精神をもったオーガナイザーたち」は、遠い昔、彼ら自身が訓練を受けた際にその問題をきちんと克服して、いまここに存在しているのだろうな、と思った。「オーガナイザーとしての立場/研究員の立場」の間にいる私と、「オーガナイザーとしての立場/活動家としての立場」の間に立つ彼らは、パラレルではないとはいえ、地域に関わる場合の立場と、個人としての政治的立場をきちんと区別している彼らのスタイルはきっとこの先、見習うべきところなのだろうな、と思わされた一日だった。


        
 

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