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コミュニティ・オーガナイジングとアクティビスタ ♯13
下院議員とのシンポジウム その3(当日編)
2003.12.17(水)
当日、下院には次のような人々が顔をそろえた。
<パネリスト>
・パシグ川再生員会 ディレクター
・パシグ川再生委員会 その他の役員
・ULAPの代表スピーカー3人
・AKBAYANのMayong Aguja議員
・AKBAYANのEtta Rosales議員
・ULAP側の弁護士
<参加者>
・ULAP加盟組織のリーダーおよびメンバーたち 約80名
<ロジスティックス>
・AKBAYANの活動家たち 約10名 (会場設営など)
・COMのコミュニティ・オーガナイザーたち 5名 (進行補助)

シンポジウムは、午後1時から、以下のようなプログラムで進行した。
1)国歌斉唱
2)パシグ川再生委員会関係者による事業紹介のプレゼンテーション
3)ULAP代表者による「なぜ私たちは立ち退きに反対か」のプレゼンテーション
4)パシグ川再生委員会ディレクターによる反駁
5)AKBAYANのMayong Aguja議員による意見表明
6)AKBAYANのEtta Rosales議員による意見表明
7)弁護士による見解表明「10メートル治水権の合法性への疑問」
8)質疑応答、ULAPの会長と副会長からの挨拶
9)下院議会傍聴

2)の「パシグ川再生委員会関係者による事業紹介のプレゼンテーション」は、もともとは委員会のディレクターによって行われる予定だったが、彼女が到着しないので、別の人たちが担当した。美しいパワーポイントを見せながら、事業概要やビジョンなどが15分間にわたって説明された。
次に、"Danger Zone to Death Zone"というタイトルで、ULAP代表者による「なぜ私たちは立ち退きに反対か」のプレゼンテーション。私がパワーポイントを操作し、3人の代表が話をする。1人目のスピーカーは90年代にサン・ホワン市からカシグラハン・ビレッジ3という再定住地に移転させられた夫人。パシグ川沿いの立ち退き政策の問題点を簡単に列挙し、「詳しくはこれから順に話します。」と言って次のスピーカー、ケソン市のM氏に代わった。話し慣れている彼は、次のように発言した。
「考えてみてください。なぜそもそも、10メートル治水権なのでしょう。どうして13メートルや8メートルではいけないのですか。なぜ、パシグ川の水質浄化のためには河岸の住民は立ち退かなくてはならないのですか? 私たちがどれだけ川を汚していると言うのですか? 統計によると、水質汚染の主原因はわれわれではなく、工業排水です。それなのに、なぜ10メートル治水権が定められるのか。理由は明らかです。政府は、再生事業と言っておきながら、実は川沿いのスクワッターを一掃したいだけなのです。この写真を見てください」
スライドには、パシグ川に沿って建つマラカニアン宮殿が映し出される。
「これ、パシグ川沿いですよね? 河岸10メートル以内ですよね。どうしてこれを立ち退かせないんです? 河岸の景観確保のために、マラカニアンを取り壊して美しい遊歩道を作りましょうよ。」
会場に集まった80人あまりのULAPのメンバーは一斉に拍手する。
「マラカニアンだけではありません。マンダルヨンのMarketplaceというショッピングモールはサンホワン川を背にして建っています。SMサンタメサ店もです。なぜ、政府は彼らには立ち退きを迫らないのか。10メートル治水権は、企業や金持ちには適応されないんです。つまり、これは明らかに、われわれ都市貧民を一掃するためにつくられたものだということです。川を美しくするのは賛成です。川沿いがDanger Zoneだという政府の見解も正しいと思う。人々のためになる計画であればわれわれは受け入れます。しかし、マラカニアンはDanger Zoneではないのにどうしてわれわれ貧者だけがDanger Zoneと指定されるのか、私たちにはわからない。」
また拍手。
「確かにこの再生計画はすばらしい。この写真をご覧ください。すでに立ち退きの行われたマカティ市の川沿いの遊歩道です。ベンチが並んでいますね。きれいでしょう。でも、このたくさんのベンチ、誰が座りますか? もはやここには住民はいないんですよ?」
会場は爆笑。
「たとえばマニラ市P地区では、立ち退きの後に同一コミュニティの中の空き地に移転できるのであればよいというPeoples Planをつくっています。それに耳を傾けてください。私たちの言いたいのは、強制撤去はやめてほしいということと、それから、移転先はOn site(もとのコミュニティの至近距離)かせめてマニラ首都圏に近い場所にして欲しいということです。この間の9月、ケソン市のパシグ川の支流で、住宅の強制撤去が行われました。これによって一人の子供が死亡しました(注:撤去のあった日に呼吸器疾患にかかって亡くなったのは事実だが、必ずしも撤去のせいで亡くなったのかどうかはわからないというのが本当のところである)。強制撤去はやめてください。そして、遠い移転先を指定するのはやめてください。遠い移転先の不便については、この次のスピーカーが述べます。」
そこで、リサール州にあるカシグラハン・ビレッジ1のリーダー、VA夫人が立ち上がった。彼女はパワーポイントに映し出された詳細なグラフと表に沿って、カシグラハン・ビレッジでの困難として、水と電気の不足、学校の不足、生計の不足、交通の不便さと首都圏までの交通費の高さ、貧困に伴う犯罪率の高さなどを説明した。
「私たちが引っ越したとき、水も電気もありませんでした。水はタンクから汲んできました。その水に寄生虫が入っていたこともあります。」
そこで、同じカシグラハン・ビレッジから来ているリーダーのD氏が立ち上がり、
「これです。見てください!」
と叫んで、ガラス瓶に入ったものを取り出し、回覧させた。
「私たちは独自に家計調査をしました。それによると、確かに、食べ物などの支出は移転先に来て減りましたが、その分、交通費が高いのです。政府との協議のためにケソン市まで出るのに往復で80ペソかかるんです」
彼女は所得調査の結果をあらわした表を示しながら言った。
「私たちはもとの家をDanger Zoneと指定されて追われました。そして移り住んだ先は、Death Zoneでした。…どうか、マニラから遠く離れた移転先を指定しないでください。私たちはOn siteでの開発を希望します。移転が絶対にいけないとは言いません。ただ、移転に際しては住民の意見をどうか十分に聞いてください。」

次に、パシグ川再生委員会ディレクターによる反駁の時間。このディレクターは、本人の意図は同だかわからないが実に「いけすかない」話し方をする人で、私はいつ、誰かがキレてつかみかかるのではないかとはらはらしていた。
「電気も水もないですってぇ〜? それは初期の話でしょう。いまはあります。次に…なんですって、ケソン市まで往復80ペソですってぇ〜? そんなことがありますかぁ。」
という具合である。会場はざわめく。
「ほんとに80ペソかかるんじゃい! トライシクルが高いんじゃ! トライシクルなしにはジープニーの乗り場まで行けないほどカシグラハン・ビレッジ1は広いだろう!」
と、そのつど会場から声が飛び、司会の男性が制する。この繰り返しであった。

次に、AKBAYANのMayong Aguja議員による意見表明。彼はULAPの意見の柱である「10メートル治水権の正当性」と「移転に際して住民の意見を聞くことの重要性」をソフトな口調で繰り返し、会場を占めるULAPのリーダーたちから熱い拍手で称えられた。
続いては、同じくAKBAYANのEtta Rosales議員による意見表明。ソフトスポークンのMayong氏とは対照的に、彼女は
「あなた、これはひどいでしょう。どう見ても都市貧困者を排除したいだけのこの計画、これはいけません。まず彼らの声を聴くべきでしょう。ねえ、ディレクター。」
と、もはや有無を言わせない調子で迫る。女性同士ということも手伝ってか、彼女はディレクターに対してやたらと強く出る。先ほどまでは散々にULAPのリーダーたちを"いびっていた(あくまでも私のイメージです)"ディレクターも
「そうですね、おっしゃるとおり。ただわれわれとしましても…」
と態度を軟化させる。そのギャップは見ていて面白かった。

そして、弁護士が「10メートル治水権の合法性」について説明した。10メートルの根拠はMetro Manila Development Authority(マニラ首都圏開発庁)の定めるResolution No.3なのだが、彼によると、Resolutionには法的拘束力はない。ただ、法として確立されているWater Codeには河岸3メートルの範囲は公的利用地であると定められており、3メートル以内の住民の移転は合法である。3メートルを10メートルに拡大する根拠はない、と彼は主張した。

この時点ですでに予定されていた2時間が過ぎ、AKBAYANのEtta氏は途中退席されたが、質疑応答や意見交換は続いた。司会進行役の男性(パシグ川再生員会のスタッフ)の進行が非常にうまく、意見の整理を公平に上手に行ってくれたのが印象的だった。最後に、ULAPの会長と副会長が一言ずつ述べて、閉会。

閉会後、AKBAYANの活動家の提案で、下院議会を傍聴することになった。この日にパシグ川問題が審議されたわけではないが、ULAP一行の約60人が傍聴席に着くと、
「AKBAYANのEtta氏から提案されているパシグ川立ち退き問題に取り組む住民組織の方々が見えています。お立ちください。」
というアナウンスがあり、起立した彼らには拍手があった。それだけ。


今回の参加者はAKBAYANの二人の議員にかなり好感を抱いていた様子だった。今後ともこのサポート関係が続いていくのであれば、彼らは5月の選挙でAKBAYANに投票するかもしれない。それは両者にとって良いことだろう。さすがは政治行動のプロ。AKBAYANといいCOMといい、そして状況に応じてすかさず態度を豹変させるパシグ川再生委員会のディレクターとい言い、どのプレイヤーもさすがはなかなか戦略的だと感心した1日だった。
 
AKBAYANのMayong議員と
パシグ川再生委員会のディレクター
終了後、下院議会を傍聴


        
 

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