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フィリピンの文化 ♯5
マニラの書店
2003.5.4(日)
マニラには(というよりも、フィリピンには)、よい書店があまりない。"National Bookstore"という全国展開の書店はどこにでもあるのだけれど、並んでいるのは料理やガーデニングなどの趣味本ばかり、あとは文房具とギフトの売り場に占領されていて、専門書はほとんど置かれていない。支店によって品揃えは著しく異なり、雑誌と文具しかおいていない店もある。書籍のスペースを多少は広く取っている店でも、「テキストブック」という、小学校、ハイスクール、大学の教科書を扱うブースが入っているくらいで、私の目当ての社会科学系の専門書などは、ほとん入手できない。

もっとも、大学の図書館や大学の出版部には多くの専門書が並んでいるので、私はだいたい、専門書の新刊や資料はそこで見つけている。ただ問題は、出版部はともかく図書館は、外部者には非常に入りにくい。

そもそも、フィリピン人は一般的に書物をあまり読まないのではないかと思う。そう考えるにはいくつか根拠がある。まず、知人の家に行って、本がおいてあるのを見ることはきわめて少ない。だいたい、多くの家庭には、本棚というものがない。「家具つき」である私の下宿にもない。そのため、私は現在、テレビ台を本棚の代わりに使っている。
前にお世話になっていた学生寮にももちろん本を置くスペースなどなかった。教科書と聖書以外の書物を持っている学生は稀で、私が日本に持ち帰るために大量に本を集めているのはとても珍しがられた。
書店に並ぶ小説やエッセイの類もあまりに少ない。ハーレクインロマンスのような薄い恋愛小説なら出ているけれど、そのほかのいわゆる「小説本」や「文学作品」というのはあまり目にしない。
なぜフィリピン人は本を読まないのか。本が高価すぎる、というのはひとつの原因だろう。日本でも単行本や専門書は高いけれど、「文庫本」という便利なものによって、文学作品や軽いエッセイ、小説までを手軽に読めてしまう。日本では市民図書館も普及しているけれど、フィリピンでは図書館はまだ「学生と研究者のためのもの」でしかないような印象を受ける。
あるいは、通勤・通学中に本を読む習慣がないのも一因かもしれない。庶民の足であるジープニーはひどく乗り心地が悪い。急ブレーキ、でこぼこ道・・・座りながらつねにどこかにつかまっていないと、揺さぶられて大変である。読書どころではない。比較的揺れの少ない電車(高架鉄道)やバスでも、本に熱中などしていると強盗のターゲットにされるからなのかなぜなのか、新聞を読む人すらいない。

しかしフィリピンにも、少数ながら、素晴らしい書店はある。ひとつは、エルミタの"Solidaridad(連帯)"――ここは、フィリピンの国民的小説家である※シニョール・ホセ氏の志で設立された書店で、社会科学・人文科学系の書籍や、まともな専門雑誌が充実している。怪しげな両替商が客引きをし、睡眠薬強盗が多発し、夜はネオンが輝く旧歓楽街地区にあって、ここだけは、まるで時間が止まったような空間だ。

もうひとつは、ケソン市にあるPopular Bookstore。以前は治安もアクセスも悪いキアポにあったが、数年前にケソン市に移った。レンガ造りの概観はとてもおしゃれ。とてもダンディな店主と、物腰柔らかなおばあさんが対応してくれる。同じく、社会科学系の書籍やフィリピン研究の関連資料(Philippinasと呼ばれる)がたくさん。それどころか、「赤い」本の充実ぶりには驚かされる。たとえばPoliticsのコーナーの棚には、フィリピン共産党に関する書籍、労働運動に関する書籍が並んでいる。労働運動団体の発行した「労働者を動員するためのハンドブック」や、「立ち上がれ労働者よ」といったブックレットもある。下のほうの棚をよく見ると、民間調査機関IBON(いつも、政府に対して批判的な独自の統計を出すことで有名)の月刊誌や、その他マニアックな逐次刊行物が置かれている。経済学のコーナーにももちろん、表紙まで真っ赤な「レー○ン」や「マル○ス」といった本が積まれている。客も、ただものではなさそうな人ばかりで、それぞれじっと棚に見入っている。紳士な店主は、客が長居しても声もかけずにほっておいてくれるが、「こういう事柄に関する本を探している」と相談すれば、間違いなく客の要求に応じた書物を紹介してくれる。
この書店、私の語学学校への通学路の途中にあるので、私は少なくとも二週間に一度はほとんど吸い寄せられるように通い、いつもついつい、30分以上も過ごしてした挙句に、厳選したいくつかの本を買ってしまう。私の買う本はいつも300ペソから500ペソくらいするので、まさに「散在の根源ここにあり」という感じだ。お陰で、店主のおじさんは私が店に入っただけで微笑んでくれる。このおじさん、ほんとうに正体不明だけれど、絶対にただものではないはず・・・。


※シニョール・ホセの中編小説「仮面の群れ(The Pretenders)」、長編の「民衆(Mass)」は日本語に翻訳されてめこん社から出版されている。これらは、私の個人的趣味で、ぜひおすすめしたい二冊。前者は、まずしい農村出身の主人公が苦学してアメリカ留学を果たしたのち、マニラの令嬢と結婚するが、妻と妻の家族を含む上流社会の腐敗と自分の価値観とのギャップに悩み、自殺を遂げる物語。はっきり言って、救いようがなく暗い。後者は、前作の主人公(実は留学前に故郷で従妹を孕ませていた)の息子が、私生児として貧しい幼年時代を過ごし、大学に入るためにマニラに出てきてトンドのスラムに住み、そこで出会った友人に影響されて、マルコス政権の圧制の元で下に社会運動にめざめていくストーリー。こちらも、全体を通して背景はきわめて重く、結末はどうしようもないほど暗い。ただ、フィリピンの70年代を偲ぶには必読の書・・・?


        
 

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