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フィリピン社会と政治 ♯1
MMDA(マニラ首都圏開発庁)による露天商の強制撤去
2003.4.1(火)
フィリピン大学からカティプナンに出る裏通りには、野菜や果物やお米、魚の店が軒を連ね、簡単な雑貨屋や食堂もあるような、ちょっとしたマーケットがある。店が多くて競合しているからか野菜の価格はアパートの近くよりも安いので、これまで私は夕方、大学の帰りによく立ち寄っていた。
 
ところが、今日の夕方そこへ行くと、ずらりと軒を並べてそこにあったはずの店が、すべて取り壊されていた。店のあった場所には屋根に使われていたのだろうトタンや壁に使われていたのだろうコンクリートブロックがばらばらになって散乱し、瓦礫の山と化している。
近くにいた人、そして第三世界研究センターのスタッフや他の研究員さんにきいた話によると、事の次第は次のとおりだった。

この地域の店はすべて不法滞在であり、MMDA(マニラ首都圏開発庁)から退去勧告を受けていた。しかし彼らは立ち退きを拒否していたので、このたび、MMDAは強制立ち退きを迫り、店を取り壊しにかかった。この政策は何もここだけではなくメトロマニラ一帯で展開されており、クバオやフィルコアのマーケットもかつて取り壊しに遭ったらしい。MMDAのねらいは交通渋滞の緩和と治安の向上。現に、大学裏のこのマーケットは、昼間こそ安くて手軽なマーケットだが、夜になると売買春も行われているときく。

私にとって、「明日からどこで買い物をするか」というのは切実な問題であるが、マーケットで生計を得ていきた人々にとっては、まさに生活の基軸を覆される問題である。もちろん、そうした人々はなんといってもたくましいので、箱物の店がない状態でも路上で商売を再開するだろう、そして、1ヶ月もしないうちにマーケットは再建されるだろう、政府のやることは無駄だよ、と、こちらの人たちは口をそろえて言う。実際に、すでに商売は再開されつつある(写真右下)。しかし、再建にかかる費用はただならぬ額である。彼らの、「グロリア」(アロヨ大統領)や「バヤニ」(バヤニ・フェルナンド氏)への憎しみは深いものがある。

バヤニ・フェルナンド氏(愛称BF)とは、現在のMMDAの長官(chairman)である。マニラ首都圏のマリキナ市(私の住むケソン市の隣)の市長(Mayer)を、96年から2001年まで3期連続で務めた。その間、エンジニアとしての才覚を発揮し、強制立ち退きを含むさまざまな手腕で市内の洪水被害や交通渋滞の問題を解決した。"Leave to Fernando"(フェルナンドに任せておけ)という言葉が生まれ、その強権性は「ミニ・マルコス」とも呼ばれている。マリキナを「全国でももっとも清潔な市」に変えた市長として一躍有名になった彼は、アロヨ大統領からそれらの実績を高く評価され、MMDA長官就任後わずか半年の今年1年より、公共事業道路省(Department of Public Works and Highways)の長官も兼任している。
強制撤去の決断を下すのは長官である彼だが、お墨付きを与えるのは大統領である。「2004年までの任期中は貧者のための発展に力を尽くす」と今年1月に宣言したアロヨ大統領だが、今回のような撤去は、貧困層の大統領への反感をいっそう高めることになる。
            
知識階級の中にも、経済学の博士号を有するはずのアロヨ大統領の政策に疑問を感じている人は多い。彼女はこの国におけるインフォーマル経済の重要性を認識していない、と、第三世界研究センターのある研究員は指摘する。確かにフィリピンには、キャンディやクッキーを一個単位、調味料やシャンプーをg単位で販売する小売商「サリサリストア」がいたるところにあり、庶民の生活に欠かせないものとなっている。ガムや新聞、果物などを売る露天商や、交差点を練り歩いて止まっているジープニーのドライバーにタバコ(1本売り)や新聞(大衆紙)、窓拭き雑巾などを売る行商人は、インフォーマル・セクターとして経済の中で重要な役割を担っている。バルート(孵化しかけのアヒルの卵。栄養がある)やタホー(豆腐に黒蜜をかけた栄養満点の朝ごはん)など、店では絶対に買えず、行商(ベンダー)を待つしかない商品さえある。こちらにもスーパーやコンビニエンスストアはあるが、そうしたインフォーマルな商業なしには庶民の生活は成り立たないのが実情である。

道に散らばるブロック、トタンなど。
一部はまだ燻っている。


マーケットが跡形もなく消えた
カティプナン通り。

MMDAへの抗議の垂れ幕。
"MMDA SALOT"(「MMDA死んじまえ」)、
"Hindi kriminal ang mga mahihirap"
(貧乏人は犯罪者ではない)、など、
GLORIA(アロヨ大統領)やBAYANI
(バヤニ・フェルナンド)を攻撃する
文句が踊っている。
壊されたブロックの中でお菓子屋の
営業を再開する店主。


        
 

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