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トラブル ♯3
コレラ発生
2003.11.5(水)
雨期も終わりに近づき、気候もずいぶんと穏やかになってきた。まだ暑いとはいえ、6月以降ずっと続いた憂鬱などしゃ降りの雨や、4月・5月のあの思い出したくもない暑さに比べれば天国のような季節。「乾季のバイアス」という言葉があるとおり(※)、これからの季節はまさに、フィールドワークにはもってこいである。

…のはずなのだが、最近は調査地のPA地区に行くのが少し怖い。というのも、調査地の近くでコレラが異常発生したのである。新聞やテレビのニュースでも話題にはなっているが、先週、トンドのスクワッターエリアから多数のコレラ患者が出た。トンドはマニラ首都圏の北西、マニラ湾に面した地区で、かつてスモーキーマウンテンが存在したところでもあり、もはや、都市貧困地区の代名詞のようになっている。トンドと呼ばれる地区はあまりにも広い。私の調査地もトンドの一部ではあるが、スモーキー・マウンテンのあったあたりからはかなり離れている。
ニュースではいったいトンドのどこが発生源なのかは報道されていない。が、コレラ発生のニュースの直後にPA地区に行ったところ、どうやら、発生源はPA地区の近くであり、したがってPA地区は潜在的感染地域と言ってよい。PA地区のコミュニティ・オーガナイザーと話し合った結果、伝播が落ち着くまでは、行ってもいいが、1)宿泊はしないように、2)できるだけものを食べないように、というアドバイスを受けた。
1)は、泊まることに問題があるというよりも、泊まった翌朝に水浴び(シャワー)をすることが問題だと言う。PA地区では、外で水浴びをしなくてはならない。家の中にバスルーム(トイレ)がない、あったとしても狭くて電気がなく、外で浴びたほうが楽である、もともと家の中には水道すらない…などの理由によるものだが、ともかく、老若男女を問わずほとんどの人が、道路や、家と家との間の細い細い隙間のこと)で水浴びをする。道路にある水道を使うのだが、この水道こそがコレラの原因のひとつかも知れないと言われている。誰が料金を払っているのかわからない、水道管に細工のされた「盗水」なので、衛生面には疑問が残る。また、水浴び場の付近の地面に落ちているゴミ(生ゴミ、お菓子の袋、食べかす、ビニル袋…などのあらゆるもの。多くの人々はこれらをドアや窓や屋上から当たり前のように投棄するのである。歩いているとときどきどこかの窓からゴミが降ってくる…)や生活排水、さらには動物や人間(!)の排泄物などを洗い流しつつ水を浴びるというのもまた不衛生な話である。コレラに限らず、なにが流行してもあまり驚くことではない。
ということで、宿泊はしないにしても、アドバイス2)の「できるだけものを食べない」は不可能である。自分では食べないようにしていても、勧められてスナックをいただいたり、果物をいただいたり、水やジュースをいただいたりすれば断ることができない。飲み水はさすがに一度沸騰させた水を使う家庭が多いようだけれど、食器や果物を洗ったり氷を作ったりするのは先述の「不安な盗水用水道」からの水。いや、洗ってあるのはまだいいほうで、勧めてもらった食べ物があきらかに汚れていたり(汚れていると感じるのはきっと私だけなのだろう)、食器を回して使っていたり(親しみの表れ?)、さっき赤ちゃんのおしめを替えたばかりの手で「sagingもどうぞ」と言いながらスナック菓子をひとつかみ差し出してもらったり(これも、問題だと思っているのは私だけなのだろう)するのはちょっと困ってしまう。これまでに何度もそれらを断りきれず口にして特には何の問題も起こっていないしとはいえ…、コレラは別である。
さいわい、私のお世話になっている方々や知っている方々は、これまでにはまだコレラの被害には遭っておられないけれど、あの環境では、とくに子どもには、どんな病気が流行ってもまったく不思議ではないと私は思う。とりあえず、事態の早期収束を願いたい。


※乾季のバイアスとは、ロバート・チェンバースの挙げた「(農村の)開発調査におけるバイアス」の一つで、外部者による調査は、途上国でもっとも生活が困難と雨期ではなく、調査のしやすい乾季に偏りがちであるということ。ほかにも、場所のバイアス(調査は交通のアクセスの良いところに偏る)、プロジェクトのバイアス(調査はすでに何らかのプロジェクトがある場所に偏りがちで、ありのままの農村を見る機会が少ない)、接触相手へのバイアス(現地で話を聞く相手は男性や有力者に限られがちである)などがある。チェンバースはこれらを、「都市に拠点を置いた専門家による駆け足の農村開発ツアー」、「早くて質の悪い調査」と批判した。詳しくはRobert Chembers"Rural Development:Putting the Last First" Harlow, England, Longman, 1983 p10-26 などを参照。


        
 

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