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フィリピン大学での授業 ♯4
CSWCDのユニークなグループ・ワークとクラスメイト
2003.10.1(水)
大学の前期が6月からスタートするフィリピンでは、そろそろ「学期末」。私の聴講しているフィリピン大学のCollage of Social Work and Community Development(CSWCD)の「コミュニティ・オーガナイジング基礎」の授業(担当はカリト先生)からも、最後のアサインメント(課題)が提示された。
7月にこのサイトでも書いた「ロールプレイ(劇)」を筆頭に、この授業の「アサインメント(課題)」は、すべて、かなりの時間を要するグループワークだった。
ロールプレイに続いては、「グループごとにどこかのコミュニティに行ってお話をきき、そこでの住民組織がどのように生まれ、継続しているのかを学びとって、授業で『物語』として発表しなさい」というもの。各グループは農村、漁村、都市貧困地区などのコミュニティを選定してエキスポージャーに行き、そこできいた話をクラスで発表した。ただ、「物語として発表」という条件がついているので、車座になっておしゃべりをする格好で発表したり、むかしばなし風にしたり、写真のスライドと音楽をバックに朗読風にしたりと、いずれも発想と練習にかなり時間がかかるものだった。
その次の課題は「組織が成功するためには何が必要か20挙げよ」という問題に対して、グループごとにさまざまな形式で発表するというもの。「自由な形で」といわれても、これまでの授業の流れから、先生が私たちに「参加型」で「ビジュアルな」プレゼンテーションを求めておられるのは明らかなので、単に20の項目をリストにしておしまい、というわけにはいかない。一つのグループは20項目を説明した後にグループ全員でギターに合わせて歌を歌い、また一つは、フィリピンの独立時に決起した独立運動家の組織を模倣して、一つのキャンドルから火を分け合っていく若者たちを演じた。私のグループは、20の項目を織り込んだ詩を朗読した。独立運動時の秘密結社カティプナンをイメージし、「O, Bayan, O, Bayan(我が祖国よ) 」で終わるその熱情的な詩をつくったのは、7月のロールプレイでも主役(コミュニティ・オーガナイザー役)を演じた現役オーガナイザー(元左翼の運動家)のEだった。ブラカン州出身の彼は、俗に「ディープ・タガログ」と呼ばれる、フィリピン人にもわからない難解で純粋なタガログ語を知っている。(バターン州出身のカリト先生も然り。) 彼の作った詩は韻まで踏んでいてすばらしいのだけれど、タガログ語圏以外の地域出身のグループメイトは「なに?この単語」、「練習しないと発音できないわ」、「sagingがわからないのも無理はないよ、フィリピン人の僕にもわからないんだから」などと言っていた。私の英語-タガログ語辞書にも載っていない単語が多く、Eに「簡単なタガログ語」に置き換えてもらってから辞書を引かなくてはならなかった。

さて、学期末最後のアサインメントとは、「これまでの3つのプレゼンテーションをコミック化して提出しなさい」というものだった。この授業でテキストとして指定されているカリト先生の著書も、巻末には劇画調の(「考えるノート」管理人のラピス&パペルさん曰く「フィリピンのビジュアル系」の)コミックがついている。内容はいたって単純で、貧しい村にオーガナイザーのLito青年(カリト先生のことである)が入り、村の人と生活をし、人々を「お父さん、お母さん」と呼んで村の状況について対話をしていく中で、人々が「私たちは一つの組織をつくるときにきている」と話し合い、農民組織、労働者組織、女性組織、青年組織などがつくられ、それは町レベルまで広がり、「よりよい未来のために一致団結して問題にとりくもうじゃないか!」というメッセージが伝わっていくというストーリー。エンディングは、人々が夕日(か朝日)に向かって立ち、「これが国家レベルの動きとなるまで、一人握りの人々だけではなく大多数の民衆のための開発をめざそう!」という言葉が添えられている、という、「熱血的」コミックなのである。
ここで、我がグループを救ったのは、またまたEだった。意外なことに彼は以前、日本のアニメーション会社の関連会社で、セー○ームーンの下絵を描く仕事をしたことがあったらしく(彼いわく、それは彼の活動家としての経歴の中では最大の汚点らしい)、ものすごく漫画がうまい。やっぱり劇画調のビジュアル系であることに変わりはないが、どんなシーンもさらさらと書いてしまうので、結局、私たちグループメンバーは、「授業のあとでビールを奢るから、よろしく」とばかりに、作業のほとんどを彼にゆだねることにした。
このクラスはいつも20時半に終わるので、クラスメイトはたいてい、そのあと誘い合ってinuman(inom「飲む」からきた名詞。つまり、文字通り「飲み」)に流れる。社会人がほとんどのクラスなので、車で通学している人も多く、分乗させてもらってキャンパスの近くの飲み屋に行き、1、2時間楽しむのが通例になっている。アルコールは飲まない人(車で来ている人は基本的には飲みません。基本的には…ですが)も、豚肉を食べない人(私のグループにはイスラム教徒の男性と、医師から豚肉を控えるよういわれている女性がいる)も参加する。そもそもこのクラスは、大学を出たばかりの20歳すぎの若者から50代まで、小学校の先生、保険会社の幹部職員、弁護士、神父見習い、ユニセフ職員、指圧師、農業従事者、主婦、現役の左翼運動家、などなどの多種多様な属性のクラスメイトから構成されているので、皆の楽しみは、飲むことよりももっぱらおしゃべりにあるようだ。授業での議論の続きがおこなわれることもあるし、授業の批評をすることもあるし、政治的な話に発展することもあるし、世間話に終始することもある。
今回はそこで、既婚のクラスメイトに対して未婚のクラスメイトが「結婚して一番困難なことは?」とたずねる場面があった。「若くて結婚するとお金がなくて困る」、「価値観や政治的立場の同一性をよりどころにして結婚するときは、ある程度歳をとってからでないと、若いときは考えが変わりやすいから危険だ」などなどの意見がきかれた。先述のEも既婚者で、現在28歳だがすでに2歳の息子さんがいる。彼いわく、
「コミュニティ・オーガナイザーはほとんど休みがなく、コミュニティで夜遅くまで歓談に付き合うのも仕事なので、Family Day(※)もない。うちの妻は活動家時代の仲間だから理解があるけど、たくさんのオーガナイザーは家庭の不和や離婚を経験している。」
とのこと。
「だからsaging、もしフィリピン人と結婚するなら活動家とオーガナイザー以外の人を選ぶべきだよ。まあ、君が活動家なら問題ないけど。」
というご親切なアドバイスをいただいた。(確かに、私の知っているベテラン・オーガナイザーJは一度離婚して、同業者のオーガナイザーと再婚しているし、現在P地区で修行をしている26歳の女性オーガナイザーVは住民組織のおじさんから「君は本当にオーガナイザーになりたいか? Jのように朝から晩まで休みなく働くつもりか? だったら、それを理解してくれる人を探していまのうちに結婚しておくべきだ」と真剣に忠告されていた。)
しかし、ほかのクラスメイトが
「E、君は、たとえば今日みたいに、オーガナイザーの仕事以外で夜遅くなるときも仕事のせいにしてるだろう」
と茶化すと、Eは「確かに、それはメリットだ」と認めていた。

ここで感心するのは、皆、このinumanにとても付き合いがよく、個人的な忙しさを主張したりはしないということである。かなり遠くから来ているクラスメイトや翌日も仕事がある社会人も、「いや、このクラスは課題が多くて大変だねえ」といいながらも、忙しいことをことさらに強調したりはしない。一般化してはいけないかもしれないけれど、日本では、このように異なる属性の人たちが集まった場合、自分(あるいは自分の業種)の忙しさを得意げに自慢する人がたくさんいるように思う。「ここ数日で睡眠時間が○時間しかなくて」「私なんてねえ、先月の一番忙しいときは○日間自宅に帰れなくて」などと、まるで競い合うように言い合っているのをきくと、私は(もちろん口に出しては言わないけれど)、「何で競うの?」、「だから何なの?」、「この人は、『大変ですねー』って言ってほしいの?」、「それって、時間の使い方が下手なんじゃないの?」と心の中で思うのである。単に要領が悪くて忙しいのかもしれないし、どこかで失敗して寝る時間がなくなってしまったのかもしれないのに、そこを問わずに忙しさだけを誇るのはいかがなものか?忙しさより、中身じゃないかと思うんだけれど。だから、私は、たまに勤勉な人が「いやー、私は暇ですから」というのをきくと、何よりの謙遜にきこえるし、できた人かも、と思う。フィリピンではあまり「忙しさ」や「大変さ」を売り物にする人がいないので、その点ではとてもとても快適だなあ、と思う。


※Family Dayとは、家でゆっくりする休日のこと。その内実は必ずしも「家族に奉仕する日」「家族孝行の日」とはかぎらないが、フィリピン人はこの言葉が好き。カリト先生のお部屋(学部長室)の壁のホワイトボードの予定表にも、日曜日のところにはしっかり「Family Day」と書き込まれていて、なんだか心が和みます。


        
 

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