日和見バナナ
We are students of development.
Hiyorimi Banana by "saging"


INDEX

Profile

Pilipinismo

Fence-sitting

Keso de Bola

About

Links

管理人の
メールアドレスはこちら
ご覧ください

TOP

TOP >> Fence-sitting 目次 >>

Fence-sitting


日本のNGO ♯5 
「食糧増産援助を問うネットワーク」調査通訳記 その1
2003.8.26
日本のNGOである「食糧増産援助を問うネットワーク(略称:2KRネット)」のIさんがフィリピンに調査旅行にいらっしゃった。マニラに住んでいた私は、通訳(といってもタガログ語ではなくあくまでも英語)として、その一部行程に同行させていただいた。

日本の外務省が無償資金協力として途上国、特にアフリカに供与しているODAの一形態に「食糧増産援助(以下2KR、なぜ2KRなのかは2KRネットのサイトをご参照ください)」がある。食糧生産を支援することによって「飢え」の問題を解決することであるが、その内容が、農薬や化学肥料、大型農業機械を相手国に大量供与し、それを現地農民に配布ではなく「商業ベースで売却」するという仕組みに対し、疑問を呈している日本の個人や団体の方々がおられる。
そして2KRネットとは、その2KR―食糧増産援助―の廃止を含めた抜本的な見直しを実現するために活動する提言型のNGOである。
2KRネットが指摘する問題点とは、@2KRの内容の問題、A2KRのあり方の問題、B見返り資金の問題、の3つである。@は、資機材や農薬、化学肥料の大量供与という援助の内容の是非であり、Aは、無料配布ではなくて商業ベースで売られる化学肥料が、小規模農民の手元に届いているのかという問題、Bは、政府が肥料や資機材を国内で売却した後の売却益(見返り資金)は公正に使用されているのか、という問題である。

2KRというのは「特定のプロジェクト対象地が存在せず、市場を通じて資機材を農民に売却する」援助なので、流通経路などを把握しているのは被援助国政府の受け入れと協力なしには、調査が難しい状況にあるという。が、今回、7月にフィリピンを含む被援助国の代表を交えた外務省との意見交換会のなかで、「現場を見にきてほしい」との声が被援助国の側からあり、それを受けて、第一弾としてフィリピンに来られたそうである。フィリピンに対する2KR援助は毎年15億円程度の巨額にのぼり、全額が化学肥料だという。フィリピンでの実施担当機関はNAFC(National Agricultural and Fishery Council)とNEDA(National Economic Development Authority、国家経済開発庁)。

私は以前からODA関係のメーリングリストを通して2KRについては存じ上げていたし、 昨年、Iさんが大阪にいらして勉強会を開催なさったときにも参加させていただいていた。ちょうどマニラにいるし、DAにもNEDAなどの政府機関にも何度か行ったことがあり、こちらで有機農法を推進している農村開発NGOもいくつか存じ上げている、ということで、この調査の一部の通訳とお手伝いをさせていただく運びとなった。

さて、本日は午前中はNAFCを訪問し、@の2KR肥料の到着から売却までの流通経路、売却方法、?の見返り資金の積み立て状況やそれを活用したプロジェクトの内容などに関する実施状況などに関するプレゼンテーションを受け、質問や資料の請求を行った。NAFCはDA(Department of Agriculture、農業庁)のなかに存在する。横断幕を用意しての大変な歓迎ぶりで、パワーポイントを使ってのプレゼンテーションも、周到に用意されていた。
その後、DA内の別の部屋で、NAFCの「IPM」担当責任者のドクターにお会いし、IPMに関するプレゼンテーションをしていただく。IPM(Integrated Pesticide Management 総合病虫害防除)とは、農薬使用を抑制しながら病虫害を防除する手法で、フィリピンではこれを国家として推進し、その流れの中で2KRの農薬供与も終了し、現在は化学肥料供与のみになったとのことである。「2KRでの資金がこのIPM手法をフィリピンに浸透させる呼び水となった。」と、そのドクターは2KRの「功」の部分を強調しておられた。

昼食は、わざわざNAFCの車で、トマス・モラト通りに移動し、とてもおいしいカニ料理のレストランでいただいた。もちろん、NAFCが接待してくださっているのだが、ここで問題が発生。
Iさんが「2人分だけ払いますと言ってください」ととても真剣に私におっしゃるのだ。私は一応言ってはみたものの、当然、先方からは「フィリピン人としてのhospitality(客人を歓迎する心)ですから」との答えが返ってきた。それを訳すも、Iさんはなおも「いえ、会計報告をしますので」とおっしゃる。「先方の政府機関の金でご馳走になったなんて言ったら、日本の人たちからブーイングですか?」と私は冗談で言ったのだが、彼は真剣に「はい、ブーイングです。貧しい人々を犠牲にした金で接待を受けるのは…」」とおっしゃる。これは困った。まあ、日本の市民団体ならいかにも、さもありなんという話だけれど…。それでは彼らは、政府機関との協議の席でコーヒーを出されても飲まないのかしら?? NAFCの立場のほうがよくわかる私は、困ってNAFCのスタッフのほうを見た。彼女はタガログ語で”Mahiya kami!(直訳すると「私たちは恥ずかしい」)”とおっしゃる。こうなればIさんのほうを説得するしかない。私は今度はIさんのほうに「hospitalityはフィリピン人の大切なマナーで…客人に割り勘させるなんて『恥ずかしい』ということなので、ここはお礼を言ってご馳走になったほうがよろしいかと」と追加説明。
ああ、異文化理解というのは難しい。それに、通訳というのは難しい。通訳は中立であらねばならないのに、実は日本の市民団体出身で、そのくせちゃっかりと「フィリピン側」に立っている私は、ほんとうに通訳失格である。このサイトの名前にまでしているとはいえ、日和見主義者もいいところだ…。

昼食のあと、Bの見返り資金を使ってNAFCが実施しているブラカン州の養豚プロジェクトを見に行く。管理を行っているのは協同組合(COOP)で、その協同組合というのはバランガイ(地方行政の最小単位)の役員によって設立されたものであり、バランガイの役員の方々が案内して回ってくださった。ここではタガログだった。わからなければ横にいるNAFCのスタッフに英語に訳してもらえばいいのだが、「ディープ・タガログ(※)」エリアのブラカン州なので、さすがに、少し緊張した。そんなに難しいことは起こらなかったのだけれど。訪れたバランガイは異様に広く人口の多いバランガイだった。聞いてみると、マニラの不法居住者の立ちのき後の再居住地区がどんどんつくられているために、バランガイが年々拡大しているとのこと。

「その2」へつづく

※「ディープ・タガログ」とは通称で、言語学的にそんなタガログ語は存在しないようだが…。マニラのタガログ語は英語がミックスされているが、マニラ近辺のバタアン州やバタンガス州、ここブラカン州で話されているタガログ語は「ピュア」なタガログ語で、マニラの人なら英語で言ってしまうような単語もタガログ語で言われる、という意味で使われている言葉」。


        
 

> Fence-sitting 目次へ

>「日和見バナナ」トップへ
[an error occurred while processing this directive]